第10回キラク介護川柳受賞作品発表

キラク大賞
賞状と副賞(5万円の商品券)進呈
雨カエル歩けないかととぼけ顔

「痩せカエル負けるな一茶ここにあり」という有名な句があります。
この句を一茶が詠んだのは54歳の時ですが,初めての子であった病弱な千太郎への命乞いの句とも言われています。
この句の「雨カエル」は介護をする「私」です。歩こうとする人を励ましもしないし、叱りもしない、手を差し伸べることもしません。
とぼけた顔でじっとみているだけのようです。でも心の中で「私」は頑張れと叫んでいます。もう一歩と叱りたい、寄り添って手を差し伸べたいのです。
でもそうはしません。それが本当の介護だと分かっているから。
この「雨カエル」のとぼけ顔の何と哀しく、そして美しいことでしょう。

 キラク介護川柳は、今回で記念すべき第10回目を迎えました。この10年間でご応募頂いた川柳は、2万句にものぼります。おかげさまで、キラク介護川柳を毎年楽しみにしているとのお声も多く頂いております。また、施設ではご利用者と職員の皆様が一緒になって川柳を考え、コンテストに参加することを年1回の行事にしているとの声もお聞きしています。たくさんの方々に支えられながら10年という節目の年を迎え、みなさまへの感謝の気持ちとともに、これからも末永くコンテストを運営していくことへの強い使命感を感じております。

 キラク介護川柳開始当初から現在まで、介護を取り巻く環境も大きく変化しております。しかし介護の中心には、いつも変わらない人と人との心のふれあいがあります。時には怒ったり、涙を流す日もあることでしょう。ささいなことで嬉しくなったり、大笑いをする日も、もちろんあります。介護を通して感じる様々な想いは、いつの日か全てを包み込んであたたかな思い出として残っていくと信じています。

 今回ご応募頂いた川柳は、介護に向き合い、葛藤する気持ちを詠んだ句が多かったように思います。これで良かったのか、もっとできたのではと、正解のない中でも答えを求めて模索する姿は、とても人間らしく、愛情に溢れています。川柳から垣間見える心の強さは、川柳を受け取った私たちに、力を与えてくれます。

 これから先も、キラク介護川柳がたくさんの方に元気を与え、励みとなる場であることを心より願っております。ご応募頂きました皆様、そしてキラク介護川柳を陰で支えてくださっている皆様、本当にありがとうございました。来年もまた、素晴らしい川柳に出会えることを心より楽しみにしています。

キラク介護川柳の部屋 運営事務局

優秀賞
なんでやろ毎日思うなんでやろ ぺちゃこ

毎日苦しい介護を続けていると、なぜ自分だけがこんな苦しい目にあうのかと疑問が沸いてきます。答えがあれば少しは癒されるのかもしれませんが、この問いに答えはありません。
貧乏になってみて初めて貧乏のつらさが分かり、病気になってみて初めて病気の辛さがわかるように、体験する宇宙の中にこそ、真理が転がっているように思います。
苦しい時、人は悩みます。でも悩んでも苦しみは去ってくれません。明日も、明後日もまた次の日も同じように苦しい。悩んで悩んで、もがいてもがいて、得るものは何もなくても、やり終える。ただそれだけでも意味はある。大方の人生とはそういうものではないでしょうか。
頭で考えるだけの生活はゆきづまる。手も腕も、足も、身体も使い切る生活こそが本物の人生なのだと、この句は教えてくれるように思います。

優秀賞
認知症優しさだけは忘れない イッコウ

認知症になると怒りっぽくなります。また認知症の患者を介護する側の人も辛抱がいる介護なので、ときには患者を怒鳴りつけたくなることがあります。
介護するほうもされるほうも、お互いにぎりぎりのところで介護し、またされているのが実情です。そんな中にあって、この句は「優しさだけは忘れない」と言い切っています。が、この言い切りの「忘れない」は「忘れないぞ」という作者の決意を述べていると解釈できます。実際は毎日怒鳴られ、文句を言われ、反対にこちらも怒ったり、怒鳴り返している毎日かも知れません、でもそんな中にあって、ふっと「優しさをわすれてはいけない」と我にかえる時があるのでしょう。その瞬間の気持ちを切り取られた句だと思います。
優しさだけは忘れずに介護をしたい、作者の決意が胸に響きます。

優秀賞
認知症神様からのプレゼント いっしー

子供の間は感情優位です。お腹が減ったら泣く、暑かったら泣く、寒くても泣く、場所も時間も相手の都合も迷惑もお構いなしです。これをそうではなく理性優位にするのが躾であり教育です。
躾られ一人前になった後、いろんな苦労をさんざん重ねた人が老いて子供に戻る。
「もういいよ、今までさんざん我慢して苦労したんだから、もう子供に戻ってもいいよ」と神様がプレゼントしてくれるのが認知症なのだとこの句は言っているのです。
子供だったら分からなくても仕方がないでしょう。そのままの、ありのままの患者を認めてあげるしかない。この句は、その中に苦労の多い認知症介護の救いがあるのではないかと問いかけているのだと思います。

鈴木ひとみ賞
介護には無いと思った笑い声 カープ

カーブさんの介護への覚悟が感じられました。 決意して臨んだ実際には、「あれ、違うじゃない!」張っていた肩の力がちょっと抜ける瞬間ですね。笑いながら怒れない。笑うと体の緊張が取れます。笑いには大きな効力があります。
“声”にひとりではない笑いの場面を感じました。複数の優しい目が見える川柳です。
(評:鈴木ひとみ)

順不同 敬称略

団体賞
団体賞作品

デイケアの利用者様からも多数ご応募を頂きました。日頃の介護への感謝の気持ちを詠んだ句が多く見られ、施設や家庭での笑顔あふれる時間を垣間見ることができ、とてもあたたかな気持ちにさせて頂きました。
これからもキラク介護川柳を通して多くのふれあいが生まれることを願っています。本当にありがとうございました。

キラク大賞・優秀賞 選者 一般社団法人全日本川柳協会
					事務局次長 真鍋 心平太 氏

賞状および賞品の発送は、10月初旬を予定しております。今しばらくお待ちくださいませ。

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